専業主婦・パート主婦にも逸失利益はある?|算定方法の考え方
交通事故の被害にあわれた方、また身近に被害にあわれた方がいらっしゃる場合、逸失利益という言葉を耳にされたことがあるかと思います。
運悪く交通事故の被害にあった場合、金銭的な補償である損害賠償金はなるべくたくさん受け取って、元の生活になるべく早く戻る準備に使いたいところです。
損害賠償金の支払対象となる逸失利益とは別名「得べかりし利益」ともいいます。
つまり、被害者が交通事故に遭って負傷しなければ、就労によって得られたはずの利益や収入について、損害賠償金による損害填補がなされるということです。
そこで問題となるのは、専業主婦が交通事故に遭ってしまった場合、逸失利益を請求することは可能なのか、可能であるとしたら、どのくらいの金額をどういう基準で請求することが可能なのかという点です。
専業主婦の場合、外部から銀行口座に具体的に振り込まれる収入金額がみえないので、自分の家事労働はいくらの価値があるのかということはなかなかはかりかねるものがあると思います。
この記事では、専業主婦の逸失利益についてご説明していきます。
このコラムの目次
1.専業主婦の逸失利益
専業主婦は、逸失利益についての損害賠償金はもらえないと考えている方、あるいは保険会社からそのようなことを言われてしまったという方がいらっしゃいますが、結論からいうとそれは違います。
専業主婦であっても、多くの場合は、主婦としての仕事に支障が出ることに対して、逸失利益として損害賠償金をもらうことができます。
専業主婦が行う家事労働は実際にはかなり手間ひまを要するものです。主婦をされたことがある方はよくお分かりになると思いますが、主婦の仕事は365日休みなく、家や庭の掃除、メインテナンス、料理、育児、高齢家族の介護など大忙しです。
最近は女性の社会進出がすすみ、家事手伝いサービスなどアウトソースもすすんでいますが、こういったサービスを利用するとなるとかなり高額な利用料金がかかります。
たとえば、週に1回、1回2時間家事代行サービスを利用した場合、出張費用などをいれると7万円~10万円程度がかかります。
整理整頓、高いところの電球交換などの少し変わった作業がはいるともっと高額な場合もあります。
日本の裁判所は、こういった主婦の家事労働に、比較的古くから、経済的価値を認めています。
最高裁判所は平成49年7月19日の判決で以下のように判事しています
結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によつて現実に金銭収入を得ることはないが、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであ(略)るから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。
交通事故の被害者の方は、主婦だからといって逸失利益の損害賠償は受けられないと思い込まず、きちんと金銭的補償を求めていきたいものです。
2.専業主婦の逸失利益の算出方法
(1) 収入のない専業主婦の基礎収入額の決め方
逸失利益は、後遺障害逸失利益と死亡逸失利益があります。
それぞれ、後遺障害がなければ得られた経済的収入と死亡していなければ得られた経済的収入の補填という意味合いがあります。
この記事では、後遺障害逸失利益について解説していきます。
後遺障害逸失利益は、以下の算式で計算します。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
計算の指数のひとつとなる「基礎収入」とは、主婦の場合、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の女子労働者全年齢平均賃金を用います。
家族構成や家庭環境によって、主婦の労働量はまちまちですが、そういった個別具体的かつプライベートな状況を保険金の計算に使用するのは事実上難しいですので、真ん中をとった、ということです。
パートをしている兼業主婦の場合はどうなるのでしょうか。
パートから得ている収入が上記の平均賃金よりも高ければ現実の収入、低ければ平均賃金を基礎収入として計算することが一般的なようです。
兼業主婦の場合、仕事も家事もしているので、合算して請求したいようですが、なかなかそれを認めてもらえることは少ないようです。
高齢者の場合、家族と同居していて家族のために家事をしている場合は、主婦としての基礎収入の認定をしてもらえますが、分担状況によっては平均賃金よりも低い認定となることがあります。
また、家事労働の経済的価値は、他人のための労働という点がポイントになるため、一人暮らしの方のように自分のためのみの家事をしている場合は逸失利益が認められません。
平均賃金の一部を基礎収入として認定してもらえる場合としてリタイヤされた高齢の男性が家事の一部を分担している場合、一人暮らしだけれど将来子供夫婦と同居して家事を手伝おうとしていたなどの事情が認められる場合などがあります。
(1) 労働能力喪失率
逸失利益算定のもうひとつの指数である労働能力喪失率とは、交通事故による後遺障害がなければ期待できた労働力を100として、事故によってどのくらいの労働力が失われたのかを比率として出したものです。
労働能力喪失率は、自賠責事務所が認定する後遺障害等級認定の等級により決定されます。
後遺障害等級は、第1級から第14級まであり、番号が若いほど重篤な後遺症であると判断されたということとなります。
たとえば、一番軽い第14級は、むちうちなどの神経症で認定される等級ですが、労働能力喪失率は5/100ですが、要介護状態の後遺障害について認定される第1級では、労働能力喪失率は100/100です。
(2) 労働能力喪失期間
労働能力喪失期間とは、後遺障害によって労働能力が喪失したり制限されたりする期間のことをいいます。
原則として、医師からこれ以上の治療で悪化も改善もしないと診断されたとき=症状固定日により、後遺障害の範囲が確定するため、症状固定日から起算しますが、子供などの場合はまだ労働能力を有しないため、18歳になったときを始点として計算します。
終期は原則として、67歳とされます。
(3) ライプニッツ係数
以上により、基礎収入に労働能力喪失率をかけて1年間の逸失利益が算定され、それに労働能力喪失期間をかけることで全体的な逸失利益の金額を出すわけですが、損害賠償金としては満額の逸失利益を支払ってもらえるわけではなく、ライプニッツ係数とよばれる係数を控除した金額が支払われることになります。
ライプニッツ係数とは中間利息控除ともいい、ドイツの数学者ライプニッツの名前にちなんで付けられたといわれています。
後遺障害の逸失利益は、生涯にわたるような長期的に残る後遺障害を前提としています。そういった後遺障害について発生する介護費用やこれによる労働力損失は、長期間にわたり少しずつ発生していくはずです。
ところが、後遺障害慰謝料として保険金で受け取る場合は、一括して前倒しでこれらの合計額を受け取ることになります。お金を前倒しでもらえるということですので、前倒しされた期間についての利子相当額は控除することが公平、という観点でこのライプニッツ係数という数字をかけることで調整しているのです。
以前は、ホフマン係数という別の指標も用いられていましたが、現在では、ライプニッツ係数に統一されています。ライプニッツ係数は年利5%固定です。
(4) 算出
基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間は上記のような目安で算出しますが、実際の示談や裁判では、被害者の特性や個別事情を考慮して交渉や判断がなされるため、それにより増減がなされます。
3.まとめ
いかがでしたでしょうか。専業主婦の場合であっても、逸失利益の請求を諦める必要はないこと、また算定の考え方の基礎をご理解いただけると幸いです。
なお、前述のように、実際の算定については、その事故の状況や被害者加害者の個性などにより変わりうるものです。
後遺障害の逸失利益について慰謝料を請求する場合、交通事故に詳しい弁護士にご相談いただければ、経験や知識をふまえてできるだけ被害者に有利になるように交渉してもらえます。
泉総合法律事務所にご相談いただければ、交通事故に特化した弁護士が情報を徹底的に収集し、交渉にあたります。初回相談は無料となっておりますので、是非一度お近くの支店にご連絡・ご相談ください。
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