自己破産手続で家計簿の提出が必要となるのはなぜ?
自己破産を申し立てる際には、家計簿をもとに作成した「家計収支表」を裁判所に提出します。
借金の原因がギャンブルや浪費などである場合には、自己破産手続中数か月にわたって家計簿をつけて、手続の監督役である「破産管財人」のチェックを受けることもあります。
さて、皆様は家計簿をつけていらっしゃいますか?
「きっちりつけています!」という方もいらっしゃると思いますが、「毎日家計簿をつけるなんて面倒」という方や、「一度やってみたけど長続きしなかった」という方も少なくないのではないでしょうか。
家計収支表を作成するうえでは家計簿が必須です。もちろん、手続中家計簿のチェックをされることになれば、毎日しっかり家計簿をつけなければいけません。
今回は、自己破産手続における家計簿の重要性について説明します。
このコラムの目次
1.自己破産手続で必要になる書類
自己破産は裁判所を利用する債務整理手続ですから、裁判所に手続を認めてもらうために、様々な書類を提出することになります。
家計簿(家計収支表)もその中の1つ。給与明細や通帳などとともに、裁判所に収入と支出を明らかにする書類として提出します。
裁判所の運用により、何か月分の家計簿を提出するかは異なります。裁判所によっては、家計簿の記載の裏付けとして領収書の提出が必要となる場合もあります。
このように、家計簿自体はもちろん、領収書やその他給与明細なども細かく要求されるかもしれません。
同居の家族に家計簿の記録や領収書の保管を任せている場合や、家族の給与明細を裁判所に要求されることもありますので、家族には自己破産することを打ち明けておいたほうが良いでしょう。
千葉地方裁判所松戸支部の自己破産手続の運用では、手続の申し立ての際に2か月分の家計収支表と2年分の通帳のコピーの提出が必要となります。領収書の提出を追完で求められることもあります。
なお、柏市に主たる営業所がある自営業者の方や柏市にお住いの自営業者以外の方(サラリーマンなど)が自己破産の申立てをする場合には、千葉地方裁判所松戸支部で手続を行うことになります。
2.なぜ家計簿の提出が必要なのか
では、なぜ自己破産手続において、家計簿の提出が求められるのでしょうか。
それは、家計簿が
- 自己破産の申し立てが認められるかどうか
- 自己破産により借金を免除すべきかどうか
を判断するための重要な資料となるからです。
(1) 支払不能の確認
自分の収入や財産で債務を返済することができなくなったとして、経済的更生を図るために債務を免除してもらうのが自己破産制度です。
ですから、自己破産をするためには自分の収入や財産で債務を返済することができない状況であることが必要です。
このように、客観的にみて、債務を返済できる収入や財産がない状況を「支払不能」と言います。
自己破産手続を申し立てても、支払い不能の状態でなければ、手続を始めてもらえません。
債務を返済するのに十分な収入や財産があるにもかかわらず、浪費や不必要な支出をしているために債務を弁済できていないということであれば、そもそも自己破産をすることが認められないわけです。
(2) 免責不許可事由に関する調査
支払不能状態であることが認められ、自己破産手続を始めてもらったとしましょう。
それでも、浪費やギャンブルなどによる借金があると、借金が免除されない可能性が生じます。浪費やギャンブルによる借金は「免責不許可事由」に該当するからです。
免責不許可事由とは、法律上、原則として借金の免除が許されなくなる事情です。
しかし、免責不許可事由があっても、借金をしたことや免責不許可事由に当たることについて反省し、手続に真摯に協力すれば、裁判所の判断で借金を免除してもらえます。この制度は「裁量免責制度」と呼ばれています。
免責不許可事由があると、裁判所は破産管財人という手続の監督役を選任します。破産管財人が選任される自己破産手続の種類は「管財事件」と呼ばれ、費用や手間が重くなります。なお、破産管財人が選任されない「同時廃止」という手続の種類もあります。
破産管財人は、申立ての時点で家計簿に基づいて作成・提出された家計収支表をチェックして、債務者及び申立代理人弁護士と面談を行います。
ギャンブルや浪費があれば、生活を立て直せるか判断するため、およそ1か月に1回、債務者と面談して家計簿を提出させ、生活状況について質問をします。
破産管財人は、債務者が、借金を繰り返さずに経済的に自立した生活ができるかどうかを検討し、裁量免責すべきかどうかを裁判所に報告します。
家計簿により不必要な支出を続けていることが分かると、自己破産で借金が無くなったとしても、また借金を繰り返してしまい、自己破産を許す意味がないのではないかと思われてしまいます。
3.家計簿の提出や作成の際の注意点
このように、家計簿は自己破産の申し立てが認められるか、自己破産が成功するかを裁判所に判断してもらうための不可欠の資料です。
家計簿の提出・作成の際には、その内容や活かし方に注意しましょう。
(1) 家計簿の内容は正確に
家計簿に記載する収入や支出の内容や金額は、正確に、正直に記載しましょう。
まず、自己破産を弁護士に依頼して申し立てるまでの間に、家計簿をつけて弁護士に提出することになります。弁護士は、その家計簿をもとに家計収支表を作成して裁判所に提出します。
これまで家計簿をつけたことがないという方でも、自己破産の申立てまでに家計簿をつけなければなりません。
「家計簿をつけるなんて気が重い」、「面倒くさい」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、面倒くさいからといっていい加減に作ってはいけません。
もし、いい加減な内容の家計簿を作成してしまった場合、家計収支表の内容も不正確になってしまいます。
裁判所に対して実際とは違う内容の家計収支表を提出することは、免責不許可事由に該当します。しかも、裁判所に対してウソをついたということでかなり悪質とされるおそれがありますから、裁量免責されない可能性が高くなってしまいます。
自己破産手続中にしてしまった浪費を家計簿に記載せず、破産管財人との面談で内容が間違っているのではと指摘されたのにウソをついてごまかせば、反省をしていないとして裁量免責すべきではないと裁判所に報告されてしまうでしょう。
自己破産をする方は、たいていの場合、少なくとも浪費が認められるものです。浪費してしまったことを隠すよりも、正直に浪費した事実を家計簿に記載し、その反省を裁判所や破産管財人に伝えたほうが、裁量免責を受けられる可能性は高くなります。
ですから、面倒だと思っても、実際の収支に合致した正確な内容のものを作成できるよう、努力する必要があります。
(2) 生活の反省に活かす
ギャンブルや浪費がある場合には、その反省をして生活を立て直していると、破産管財人や裁判所に認めてもらう必要があります。
家計簿をつけていれば、自分のお金の流れをきちんと把握することができます。いくらの収入があり、そのうちのどれだけを、何に対していくら支出しているのかが分かりますので、不必要な支出をしていないかどうかをチェックすることができます。
破産管財人との面談はプレッシャーになることは間違いありません。それでも、この機会を利用して、不必要な支出、節約の方法などを見出すことにより、家計を改善することが可能となります。
家計簿の作成は、家計の建て直しを図るうえでもとても役立ちますので、面倒でも意義のあることと言えるでしょう。
4.まとめ
自己破産手続では、面倒でも申立て前、場合によっては申立て後も家計簿をつけることになります。
たしかに、毎日収支を記録するというのはなかなか大変です。
ですが、一度習慣にしてしまうと、意外と苦にならずに続けていけるものです。
また、今は、パソコンやスマホで簡単に家計簿がつけられるソフトやアプリもたくさん出ていますから、それらを利用すれば、手書きよりもかなり楽に作成することができます。
家計簿のつけ方にしても、毎日その日の分をつけるという方法もありますし、週末や月末に、1週間分や1か月分をまとめてつけるという方法もあります。
家計簿の作成を続けていくコツは、溜めすぎずにこまめにつけることかと思いますが、多くのレシートや領収書を目の前にすると億劫になってしまうので、週に1回はつけるようにするなど、人それぞれ自分に合ったやり方でつけてみてください。
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