交通事故

高次脳機能障害でMRI画像検査を受ける際の注意点

高次脳機能障害の後遺障害等級認定では、MRI画像検査結果で外傷による脳損傷があると証明できれば、因果関係の認定に有利に働きます。

もっとも、ただ漫然とMRI検査をすれば異常が分かるとは限りません。

ここでは、高次脳機能障害の後遺障害等級認定手続における画像検査のポイントを踏まえて、事故後の意識障害の有無に応じていつどのようなMRI検査をすべきか、おおよその目安を説明します。

1.画像検査のポイント

記憶障害や性格の変化など、高次脳機能障害の症状に気付いたら、すぐに医師に被害者様の症状や事故の状況を具体的に丁寧に説明し、MRI検査をしてもらいましょう。

その理由は以下の通りです。

(1) 画像検査は因果関係の証拠になりうる

損害賠償請求や後遺障害等級認定のためには、交通事故が原因で後遺症が残ったことを医学的に証明することが必要です。

因果関係を証明するには、医学的専門的な検査による客観的証拠、「他覚的所見」が証拠として重要となります。

高次脳機能障害の他覚的所見としては、事故直後の意識障害や知能テストなどがありますが、外傷性とわかる異常が映し出された画像検査結果は最も認定に有利になる証拠です。

まさしく、高次脳機能障害が起きた原因である脳損傷を「目に見える」ようにできるからです。

(2) CT検査だけでは不十分

CT検査も、MRI検査と並んで高次脳機能障害の脳損傷を発見するため役立つ画像検査です。
しかし、CT検査だけでは不十分となるおそれがあります。

CT検査は交通事故ではたいてい事故直後の救急搬送先病院にて撮影されています。
MRIよりも手間や時間がかからないため、受傷したばかりの被害者様に重い負担をかけずに済みますし、多くの救急病院にあるからです。

ところがCT検査はレントゲンと同じX線を利用します。基本的には骨など硬い組織を確認するのが得意です。
脳など柔らかい組織のキズは、よほどひどいものならともかく、細かい傷や出血の検査には向きません。

一方、MRI検査は磁力や電磁波を利用して、体内の水分や脂肪分、鉄分などに働きかけ、その状態変化を画像にします。
脳の傷や出血を確認するにはMRIが向いているのです。

医師はCT検査だけで十分と考えてしまいがちですが、症状があることをよく説明し、より精密検査を受けるようにお願いしてください。

【MRI検査も万能ではない】
とはいえ、MRI検査でも、脳の異常が明らかにならないことはあります。脳の小さな傷や出血、脳神経自体の損傷は、できる限り早くから・複数回、一定の期間に・時期や被害者様の状況に応じた種類のMRI検査をしなければ、証拠として十分な画像が現れにくいものなのです。
キズや出血は回復していきますから画像に写りにくくなりますし、事故直後と時間が経過してからの脳の様子を比べるには早くから検査をしておくことが必要です。
脳の損傷がどう変化していったのか、脳損傷の推移を明らかにするため、事故直後に異常が見つかったとしても、その後も定期的な検査が必要です。

2.意識障害がなかったケース(脳挫傷など)での検査

脳が頭蓋骨にぶつかって傷ついてしまう「脳挫傷」などでは、意識は事故直後からはっきりしていても、高次脳機能障害となっていることがあります。

キズが大きければCT検査で発見されることもありますが、傷が小さい・細かい出血程度しかない・脳の底の部分が傷ついているなど、CTではわからないおそれがあります。

小さい傷、わずかな出血はすぐに消えて検出できなくなるおそれがありますから、すぐにMRI検査をしましょう。

もっともMRI検査ならどれでもいいというわけではありません。
たとえば「T1」と呼ばれる種類のMRI検査は脳の「形」を確認できますが、キズや出血などを見つけ出すには向きません。

「高次脳機能障害の症状があってもCTでは異常が見つからない」…そんなときのMRI検査としては、以下のものが適切です。

  • DWI
  • FLAIR
  • T2

DWIは外傷による細かいキズを見つけ出すことができます。
ただし、事故から時間が経過すると異常を見つけにくくなりますから、事故直後にすぐに検査することが重要です。

FLAIRはT2と呼ばれる検査の一種です。DWIでは異常が見つからなくなってしまった段階でも、脳表面の異常をよく確認できます。
交通事故で頭蓋骨に脳がぶつかってできた傷は、脳の表面に生じやすいため、FLAIRは脳挫傷の検査に向いているのです。

一方、精度はDWIより劣ります。DWIでしかわからなかった脳挫傷を後からFLAIRで見つけようとしても手遅れになるおそれがあります。

T2の「本家」、正確にはT2強調画像と呼ばれるMRI検査は脳内の水分を細かく確認できます。
DWIやFRAIRには精度で劣りますが、脳挫傷だけでなくびまん性軸索損傷の確認にもなります。

また、脳挫傷で脳の血管が傷つき、小さな腫瘍や脳梗塞ができていると確認できる可能性があります。

3.意識障害があったケース(びまん性軸索損傷)での検査

事故直後から、意識喪失など重い意識障害が6時間以上、または記憶障害など軽い意識障害が1週間以上にわたって続いたケースなど、一定以上の意識障害が生じた場合には、「びまん性軸索(じくさく)損傷」による高次脳機能障害が生じている可能性があります。

軸索とは簡単に言えば脳細胞の間をつなぐ神経。その神経が事故の衝撃で千切れてしまい、高次脳機能が低下してしまうのです。

神経自体はMRI検査でも直接映し出せませんが、それでも、MRI検査を早くから定期的に適切に続けることで、びまん性軸索損傷が生じたと証明できる可能性があります。

それでも、びまん性軸索損傷の立証は、基本的に、事故直後において、前述程度の意識障害がない限りとても難しいものです。

医師や、場合によっては被害者様ご本人を説得して、検査をしてください。

脳内部の細かい出血については、MRI検査の中でも以下のものが有用です。

  • DWI
  • T2*(「スター」と読みます)
  • SWI

T2*(スター)は、比較的時間が経過した段階でも微小な出血を発見できる可能性があります。

事故から時間が経過して以降の定期的な確認は、血の中の鉄分に敏感に反応するSWIが向いています。
もっとも、SWIだけでは事故による出血だと証明しきれません。

事故直後のDWI、事故後早期のT2*、それ以降定期的にSWI…と、MRI検査をするタイミングに応じてMRIの種類を変えていくことで、びまん性軸索損傷による脳出血を捉えやすくなります。

4.まとめ

症状が明らかでも、事故との因果関係が明らかでなければ、適切な後遺障害等級認定は期待できません。

意識障害が重ければ画像検査結果が不十分でも認定を受けられる可能性がないとは言いませんが、やはり脳自体の異常を客観的に明らかにできる画像検査結果は認定のため、損害賠償金が適切に支払われるためには極めて重要な資料となることは明らかです。

CTで十分だと考えている医師や、症状を自覚していない被害者様ご本人を説得することは大変かもしれません。

高次脳機能障害の後遺障害等級認定は、実際のところかなり難しいものです。
もしお困りでしたら、ぜひ泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。

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