追突事故でむち打ち症になってしまった場合の対処法と注意点
追突事故のような交通事故の被害にあった場合に起こりうる怪我として、よくあるのが、むち打ち症です。
ここでは、交通事故でむち打ち症になった場合にどのように対処するのがよいのか、いくつかの注意点を中心に、詳しく解説します。
このコラムの目次
1.むち打ち症とは
(1) むち打ち症の概要
交通事故にあった場合に発症することの多いむち打ち症ですが、具体的には、どのような怪我なのでしょうか。
そもそも、いわゆる“むち打ち症”とは、頸部外傷の局部症状の総称であって、医学的な傷病名ではありません。
むち打ち症と呼ばれているものの中には、「頚椎捻挫」、「外傷性頚部症候群」、「頚椎症性神経根症」などの傷病名で診断されるものがあります。
むち打ち症は、車の追突事故などで衝撃を受けて、首の動きが通常の範囲を超えてむちのような運動を強いられてしまい、骨の周辺にある靭帯や筋肉などが損傷を受けることにより、発症するといわれています。
(2) むち打ち症でよくみられる症状
むち打ち症でよくみられる症状は、次のようなものです。
- 首の痛み、首が動きにくい
- 頭痛
- 体がだるい、疲れやすい
- 吐き気
- 肩こり、背中の痛み
- めまい
(3) むち打ち症の検査
神経的なダメージを確認するために、スパーリングテストやジャクソンテストと呼ばれる反射検査や知覚検査などを行ないます。
スパーリングテストとは、頭部を後屈・側屈させ、両手で下方に圧迫する検査です。ジャクソンテストとは、頭部を背屈させ、額部を下方へ押さえる検査です。
また、レントゲン検査を基本にして、症状に応じてMRIやCTスキャンなども行います。
2.整骨院、接骨院での治療の注意点
(1) まずは整形外科で診断を受ける
交通事故でむち打ち症になった場合、まずは整骨院ではなく整形外科でみてもらいましょう。
整骨院の先生は、医師ではありませんから、診断書を作成することができません。事故直後の診断書がなければ、相手方への治療費などの損害賠償金の請求で問題になる場合が出てくるのです。
後で説明する後遺障害等級認定においても、後遺障害診断書が必須ですから、整形外科の医師に書いてもらわなければなりませんし、等級認定がおりるかどうかにおいても、整形系外科への通院の頻度が問題となってくる場合もあります。
さらに、整形外科においては、整骨院ではできない様々な検査を受けることもできます。早期にきちんとした検査を受けておくことも、後遺障害等級認定において大切なことです。
したがって、できる限り早めに整形外科での診断を受け、その後も定期的に通院を続けるべきであるといえるでしょう。
(2) 整骨院や接骨院へ通院する場合の注意
もっとも、整形外科より、整骨院や接骨院の方が、時間や場所の融通がきいて通院しやすいとう事情があったり、また、治療の幅も広く痛みの緩和に役立ったりということも少なくないようです。そのため、整骨院や接骨院への通院を希望する人も多くいるでしょう。
ただし、その際には、注意しなければならない点があります。
整骨院や接骨院での治療については、相手方(保険会社)から、その必要性・相当性が争われ、必要のない通院だから治療費を支払わないとの主張が出てくることがあるのです。
この点について、裁判例では、一般的に次のような基準を示しています。
「整骨院での施術については、その施術を行うことについて医師の具体的な指示があり、かつ、その施術対象となった負傷部位について医師による症状管理がなされている場合でない限り、当然には、その施術による費用を加害者の負担すべき損害と解することはできず、施術費を損害として認めるためには、
〈1〉施術の必要性
〈2〉施術内容の合理性
〈3〉施術の相当性
〈4〉施術の有効性
につき、個別具体的に積極的な主張・立証がなされる必要があるものと解される。」
(福岡地裁平成26年12月19日判決・自保ジャーナル 1938号93頁)
すなわち、まずは、整骨院や接骨院で施術を受けることについて、医師が指示を出していたかどうかが問題となります。医師が必要と判断し、医師の指示に基づいて通院していたのであれば、基本的には、施術費用の賠償が認められます。
次に、指示がなくても、①施術の必要性、②施術内容の合理性、③施術の相当性、④施術の有効性などを主張・立証することによって、賠償が認められる場合があります。
具体的には、整骨院での施術を受けることで症状が良くなっていったという事情があって、施術やそれに対する施術費用が過剰、過大であったりしない場合などのケースで認められ得ます。
もっとも、必要性・相当性を的確に主張立証するのは容易ではありませんから、この点で争いになってしまった場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
3.むち打ち症で請求できる損害項目
むち打ち症で賠償請求することができる得る損害項目には、以下のようなものがあります。
- 治療費
- 通院交通費
- 休業損害(むち打ちになったことによって仕事を休まなければならなくなった場合の減収分の損害)
- 入通院慰謝料(むち打ちの治療のために通院を余儀なくされたことによる精神的損害に対する慰謝料です)
- 後遺障害慰謝料(後遺障害が残ってしまった場合の慰謝料です)
- 後遺障害逸失利益(後遺障害が残ったことで労働能力が喪失し、それによって得られるはずだった収入を得られなくなったことによる損害です)
4.入通院慰謝料を請求する場合の注意点
(1) 入通院慰謝料の基準
通院慰謝料とは、通院したことによる精神的苦痛に対する慰謝料ですので、基本的には、通院期間によって、その金額は増減します。
通院慰謝料の基準には、①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士基準(裁判基準)の3つがあります。
①自賠責基準は、自賠責において最低限の保障として定められたものです。
②任意保険基準は、任意保険会社が独自に設定している基準で、自賠責に少し上乗せしたくらいの低額なものであることが多いです。
③弁護士(裁判)基準は、弁護士が相手方に損害賠償請求する場合に用いるもので、かつ、裁判になった場合に裁判所が目安にする基準でもあり、この中で一番高額になっています。
お分かりのように、弁護士基準で算定し請求するのが、一番損をしない方法です。
弁護士基準では、入通院の期間に基づいて、「赤い本」という本に掲載されている表に当てはめて金額を算出します。むち打ちのような他覚症状のない怪我の場合には、赤い本の表の中でも、“別表Ⅱ”という表を用いることになっています。
例えば、通院期間3か月の場合、53万円、通院期間6か月の場合は、89万円となっています。
なお、その際、慰謝料算定のための通院期間は、通院が長期にわたる場合には、症状、治療内容、通院頻度をふまえて、実通院日数の3倍程度を目安とされることもあります。
例えば、通院期間が6カ月、実際の通院日数が50日の場合には、6カ月ではなく、150日の方が採用されることがあり得るということです。
(2) 注意点
このように、通院が長期にわたる場合には、慰謝料算定のための通院期間を、実通院日数の3倍程度を目安に判断されることもある、という決まりがあるために、通院期間だけではなく、通院頻度も重要であるということがわかります。
仕事や家事育児が忙しいなどの理由であまり頻繁に通院しにくいという人もいるとは思いますが、適切な慰謝料を確保するためには、できる限り、定期的に、できれば週に2~3回程度は通院できるとよいと思います。
5.治療費が打ち切られるタイミングとは
(1) 治療費の打ち切りとは?
交通事故でむち打ち症になり通院をする場合、相手方の任意保険会社がその治療費を直接医療機関に支払うという対応(一括対応)を行うことが多いです。
ところが、保険会社は、自らが支払う損害賠償金の金額をできるだけ低く抑えたいと考えますから、できるだけ早期に治療を終わらせようとして、一定の期間が経過すると、治療費の支払いを打ち切ると言ってくることがあるのです。
むち打ち症の場合は、3カ月程度で打ち切りを言ってくることも多いでしょう。
これは、むち打ち症は、3カ月から6か月程度で治療が終了することが多いと言われているからですが、ひとくちにむち打ち症といっても程度や治療の経過は個人個人で様々ですから、もちろんこの期間で治療が終了しない場合もあります。
にもかかわらず、保険会社に言われるままに治療をやめてしまうと、必要な治療を受けることができなくなるだけではなく、先ほど説明した通院期間によって決まる入通院慰謝料の金額も下がってしまいます。
それでは、まだ治療を継続したいのに保険会社から治療費を打ち切ると言われた場合、どうしたらよいのでしょうか。
(2) 治療費の打ち切りに対する対処法
治療の必要性を判断するのは保険会社ではありませんから、本当に必要な治療であれば、保険会社から治療費を打ち切られたとしても、治療をやめる必要はありません。
治療をまだ続けたいにもかかわらず、保険会社から打ち切ると言われたような場合には、保険会社と交渉し、治療の必要性を訴えます。
一般の人が保険会社と対等に交渉するのは容易ではありませんので、弁護士に依頼し、保険会社と交渉をしてもらうことも考えられます。
それでも、保険会社が治療継続を認めないような場合には、医師の判断をあおぎましょう。医師がまだ治療を継続する必要があると言っているのであれば、後から治療費を請求した場合に支払われることがほとんどです。
ですから、このような場合には、とりあえず自分で治療費を立て替えて、治療を継続してください。
また、その場合には、健康保険を利用することができますので、負担を軽くするためにも健康保険を利用して通院を継続するとよいでしょう。
6.後遺障害等級認定
(1) 後遺障害等級認定とは
交通事故で怪我をして、症状固定の状態(それ以上治療をしてもよくならないような状態)になっても後遺症が残った場合には、慰謝料を請求することが出来るのですが、そのためには、基本的に自賠責保険の「後遺障害」として等級を認定(「後遺障害等級認定」)してもらう必要があります。
自賠責保険においては、後遺症の程度によって定められた「等級」ごとに慰謝料などの金額が決められることになっています。
等級認定では、自賠責損害調査事務所という機関が、中立的な立場で、その被害者の症状が賠償されるべき交通事故の後遺障害に当たるのか、どの程度の後遺障害に当たるのかを判断します。
(2) むち打ち症の場合によくある後遺障害等級
むち打ち症の場合に認定され得る後遺障害等級は、症状の程度に応じて、12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)と14級9号(局部に神経症状を残すもの)です。
ほとんどの場合は14級で、むち打ち症で12級が認定される例はそれほど多くはありません。
(3) 等級認定を勝ち取るために必要なこと
①治療期間、頻度の確保
一般的に、後遺障害等級が認定されるためには、事故から症状固定までの期間が約6か月以上ある必要があるといわれています。
先ほどの説明のように、むち打ち症の場合、通院期間が6カ月に満たない時点で、保険会社から治療費の打ち切りを宣告されることも多いですので、医師と適切なコミュニケーションをとり、できる限り通院期間と通院頻度を確保するようにしましょう。
②弁護士のサポート
ア.医師へのアプローチ
後遺障害等級認定を申請するためには、医師が作成した後遺障害診断書が必要です。
しかし、医師は、必ずしも後遺障害診断書の作成に慣れているわけではありませんし、後遺障害等級認定がされやすいようにというような配慮をせずに診断書を作成することが多いです。
そのため、検査に不十分な点があったり、記載内容に過不足があったりするような場合もしばしばです。
このような場合、弁護士に依頼すれば、弁護士から医師にアプローチして、できる限り後遺障害等級認定を得られやすいような検査を行ったり診断書を作成したりしてもらえるように、弁護士から直接依頼してくれることもあります。
イ.被害者請求
後遺障害等級認定の申請には、相手方保険会社が代わって行う方法(事前認定)と、被害者が自ら申請を行う方法(被害者請求)とがあります。
被害者請求には、被害者に有利な資料を準備して申請を行うことができるため等級認定を勝ち取れる可能性が高まるなどのメリットがあります。
もっとも、自分自身で、後遺障害等級認定を勝ち取りやすいような有利な資料を収集し、全ての書類を整えてきちんと被害者請求を行うことは、容易ではありません。
弁護士に依頼してしまえば、全ての手続きを代わりに行ってくれますし、最大限依頼者の利益になるように準備を整えてくれます。
7.交通事故によるむち打ち症でお悩みの方は泉総合法律事務所へ
交通事故によるむち打ち症は、本当によく起こり得るのですが、軽い怪我であるとみられがちであることもあって、適切な対処ができていないというケースも見受けられます。
軽い怪我のようでであっても、場合によっては、後遺障害が残ることもありますし、弁護士に依頼した方が得になることも少なくありません。
また、もし弁護士費用特約に入っているような場合には、弁護士費用の負担なく、弁護士に依頼して損害賠償金額の増額を図ることができます。
交通事故でむち打ち症になってしまった場合には、まずは泉総合法律事務所へご相談下さい。
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