債務整理

債権者が個人再生に反対した場合の対策方法

個人再生における債権者の抵抗への対策

個人再生をすれば債権者に配当をすることなく、借金を減らすことが出来ます。

しかし、債権者は損害を受けてしまいます。
裁判所が最終的に借金減額を認めれば、債権者としてはどうしようもありません。

ですから、債権者は、個人再生が認められる前に、様々な抵抗をすることがあります。

ここでは、個人再生手続の中で、債権者がしてくる抵抗債権者の抵抗に対する対策について、①手続前の裁判、②財産の差し押さえ、③債権者による手続への反対決議、などを、手続の流れに沿って、わかりやすく説明します。

1.手続前に訴訟を起こしてくる債権者への対策

個人再生手続を弁護士に依頼したと知った債権者が、借金を支払えと訴えてくることがあります。

もっとも、実際には、手続が始まるとその裁判はほとんど無意味になります。これはただの脅しです

(1) 弁護士へ連絡し手続を急ぐ

対策はシンプルです。弁護士に報告し、その後は無視しましょう。

手続の準備が遅れると訴えられる可能性が大きくなります。出来る限り早く手続を申し立てることも一つの対策です。

(2) 訴えられても支払わない

訴えられたことに驚いて借金を支払ってしまうと、借金がさほど減らなくなってしまうおそれがあります。
債権者をえこひいきしてはならないという重要なルールに違反するからです。

このルールは、「債権者平等の原則」と呼ばれています。

ある債権者に優先して返済することは「偏頗弁済」と呼ばれ、その分、返済額が増えてしまうことがあります。

2.手続の前に財産を差し押さえてくる債権者への対策

手続が始まる前に財産を差し押さえられてしまうこともあります。

手続を急ぐことがここでも重要です。

(1) 給料の差し押さえへの対策

借金回収のために債権者が差し押さえてくる財産と言えば給料です。

給料の差し押さえは、

  • 目安として給料の4分の1が債権者の手にわたる
  • 勤務先に借金の存在がばれてしまう
  • 偏頗弁済になるおそれがある

などの問題を引き起こします。

対策1 債権者への説得

手続が始まれば、債権者は差し押さえられた給料を受け取れなくなります。

「もうすぐ個人再生をするから、差押えをしても意味がない」と説得し、債権者自ら差し押さえを取り下げるよう交渉します。

対策2 手続を急ぐ

債権者が説得に応じないようなら、少しでも早く申立てをして、裁判所や法律の力を借りることになります。

手続を申し立てると、裁判所の「差押中止命令」により、債権者が給料を手に入れられないようにしてもらえます。
手続が始まると、法律により、差し押さえを新たにすることは禁止されます。すでにされている差し押さえも中止されます。

尚、差し押さえられた給料が戻ってくるのは原則として手続のあとです。

債務者が給料を受け取るには、差し押さえが「取り消される」ことが必要です。
しかし、よほどのことがない限り、裁判所は「差押取消命令」を出してくれません。

差し押さえられたものの、債権者が手に入れられなかった給料は、手続が終わって初めて戻ってきます。

(2) ローン付き自動車を引き揚げられてしまう場合

自動車ローンの残る自動車は自動車ローン債権者に引き上げられてしまいます。
借金に担保がある場合、債権者平等の原則の例外になってしまうからです。

自動車を残すには、基本的には親族に買い取ってもらえないかなどを債権者も交えて相談するしかありません。

それ以上の問題が、自動車の車検証の名義です。
車検証の名義次第では、自動車の引き揚げが偏頗弁済扱いされるリスクがあります。

非常に専門的な問題なので、細かい説明はここではできません。

ともかく、自動車ローンがある方は、車検証や契約書を必ず弁護士に見せてください。

3. 債権者による再生計画への反対に対する対策

個人再生の仕組みは、

  1. 借金の一部を分割払いする「再生計画」の案を債務者が作成する
  2. 再生計画を裁判所が認可する
  3. 再生計画に基づく支払いを終えると、残る借金が免除される

というものです。

2で裁判所が再生計画を認可してくれなければ、返済負担がそもそも減りません。
ところが、一般に用いられる手続では、債権者の多数決で反対されていないことが、認可条件の一つになっています。

債権者の多数決を回避できる場合もありますが、そのときは、個人再生を成功させるためのハードルが高くなるおそれがあります。

(1) 債権者の多数決で個人再生が失敗する恐れ

個人再生には、二つの種類の手続がありますが、一般的には、「小規模個人再生」という手続が利用されています。

  • 将来収入が継続する見込みさえあれば利用できる
  • 高額な財産を持っていない限り、再生計画での支払額がさほど大きくならない

というメリットがあるためです。

しかし、小規模個人再生には、「債権者による再生計画案の書面決議」制度があります。

債務者が作成した再生計画案について、債権者の半分以上の反対、または借金総額の半分を超える反対があると、再生計画案は否決されてしまいます。

再生計画案が否決されれば、裁判所は再生計画を認可することが出来なくなります。
そのため、手続が打ち切られ、個人再生が失敗してしまうのです。

(2) 債権者の反対を回避するには給与所得者等再生を利用

もう一つの個人再生の手続である「給与所得者等再生」では、債権者による再生計画の書面決議はありません。

給与所得者等再生を利用することが出来れば、債権者の反対を回避できます。

しかし、給与所得者等再生には、以下のようなデメリットがあることに要注意です。

収入が安定していないと利用できない

給与所得者等再生を利用するには、収入が継続する見込みがあると言うだけでなく、その収入が定期的に入るもので、ブレが少ないものである必要があります。

年収が十分あっても、自営業・歩合給などの方だと、利用できないリスクがあります。

再生計画にも続く支払総額が増えてしまい、個人再生が失敗するおそれがある

いずれの手続でも、再生計画が認可されるには、計画通りの返済が可能な見込みが必要です。「再生計画の履行可能性」と呼ばれ、個人再生手続で最も重要な条件になっています。

履行可能性が認められるうえでは、再生計画の支払総額が大きな問題になります。

小規模個人再生では、

  • 最低弁済額:法律が借金総額に応じて定めている基準額
  • 清算価値:債務者が自己破産した場合に債権者に配当される財産の見込額

のいずれかより大きいほうが支払総額になります。

そして、給与所得者等再生では、「可処分所得の2年分」が、基準として追加されます。

「可処分所得」とは、簡単に言えば、手取りから税金や一般的に必要とされている生活費を引いた「自由に使えるお金」です。

この基準は、最低弁済額や清算価値よりも大きくなりやすいため、支払総額が増加するリスクがあります。

そのため、給与所得者等再生は、小規模個人再生よりも、再生計画の履行可能性が認められにくくなってしまいます。

将来の自己破産の負担が大きくなる

無事、給与所得者等再生による再生計画が認可され、その返済も終えたとしましょう。

しかし、また借金をしてしまい、自己破産をしようとした場合、再生計画認可決定の確定から7年以内に自己破産を申立てると、自己破産が出来なくなるリスクが生じる・自己破産手続の負担が重くなる、などの問題を招きます。

4. 債権者により再生計画の反対多数の具体例

どんなときでも、債権者が反対してくるわけではありません。
しかし、特殊な事情がある場合には、債権者の反対を無視できなくなります。

債権者により再生計画が否決されてしまうリスクが高い場合は以下の通りです。

(1) 債権者の人数が少ない場合

一人しか債権者がいなければ、その債権者に生殺与奪を握られてしまいます。二人であっても、一人が反対すれば手続は打ち切りです。

ア スマホのソシャゲ~ガチャやアイテム課金~
スマホのソシャゲでガチャを回しすぎたお金が、通信会社決済となっている場合、通信会社だけが債権者となります。
なお、返しきれない状態で新たに他の会社から借金をすると、手続が利用できないおそれがありますのでやめましょう。

イ 投資~FX・株式・ビットコインなど~
FXなどの投資でレバレッジをかけすぎて証券会社に追証金を要求されてしまった場合も、証券会社だけが債権者となるリスクがあります。

(2) 巨額の借金を持つ債権者がいる場合

債権者が多数いて、ほとんどが再生計画に反対していなくても、借金総額の半額を1円でも超える債権者の反対があれば、再生計画は否決されます。

ア おまとめローン
複数の借金を一つの借金にまとめる、いわゆるおまとめローンは、おまとめローン債権者に高額の借金を集中させてしまいます。
また、おまとめローンは、債権者の人数を少なくしてしまうことも問題です。

イ 住宅ローン
住宅ローンは、住宅資金特別条項を利用する場合、問題になりません。

住宅資金特別条項(「住宅ローン特則」とも呼ばれます。)とは、本来、債権者に処分されてしまうマイホームを維持してほかの借金を減額する個人再生独自の制度です。

住宅資金特別条項を用いた場合は、住宅ローン債権者は議決に参加できないことになっていますので、巨額な住宅ローンが反対に回るという問題は生じません。

もっとも、住宅資金特別条項を利用しなかった場合、話は別です。
住宅資金特別条項の利用条件をクリアできなかったため、マイホームを手放さざるを得ない場合でも、自己破産のデメリットを避けるためにあえて個人再生手続を利用することがあります。

そのときは、マイホームを処分してもなお残った住宅ローンについて、住宅ローン債権者、もしくはその保証会社が議決権を持ちます。

たいていは、マイホームの処分代金を回収しているため、反対に回ることはありません。

しかし、マイホーム価格が不十分で回収不足の場合には、巨額の反対債権者となって大きな障害となるおそれがあります。

(2) 保証会社がいる場合

書面決議で注意しなければならないのが保証会社です。

比較的穏当な債権者である銀行に対して、債務者に代わって借金残高を支払い、債務者に肩代わり分の支払を求める保証会社は、比較的強硬な傾向にあります。

手続の途中で突如債権者が強硬な保証会社に代わると、当所の見通しが外れてしまうリスクがあります。

おまとめローンや住宅ローンなど、高額な借金に特に保証会社が付くことが多いため、なおさら注意が必要です。

5.個人再生における債権者の抵抗への対策は弁護士に相談を

個人再生手続は、債権者にとって損害を与えてしまう手続である以上、債権者は様々な抵抗を試みます。

特に、再生計画の決議に関する見通しは、専門家でなければ難しく、かつ、手続を打ち切られるというリスクも非常に重大です。

泉総合法律事務所では、個人再生手続に関する豊富な経験と実績のある弁護士が多数在籍しております。

個人再生手続を利用したいと考えている皆様は、ぜひ、気軽にお問い合わせください。

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